
執筆・監修:菊地 健太(理学療法士)
まず結論です。 産後のあごの痛みや食いしばりは、顎関節だけの問題とは限りません。睡眠不足や緊張に加え、授乳・抱っこで頭を支え続ける首、動きが小さくなった肋骨、息を止める癖が重なっていることがあります。ただし、「姿勢が悪いから顎が痛む」と単純には決められません。顎・首・呼吸・生活環境を分けずに確認することが大切です。
産後、「朝起きるとあごが疲れている」「授乳後に耳の前が痛い」「気づくと奥歯を噛みしめている」ということはありませんか。
赤ちゃんのお世話を優先する生活では、同じ方向を向いた授乳、長時間の抱っこ、細切れの睡眠が続きます。つらくても歯科へ行く時間が取れず、「産後だから仕方ない」と我慢している方も少なくありません。
この記事では、顎関節症の公的資料と系統的レビューをもとに、研究で分かっていること、解剖学・生理学から考えられること、オステオパシーの臨床的な見立てを分けて解説します。
産後のあごの痛みで起きていること
あごの関節は耳のすぐ前にあり、下あごの骨と頭蓋骨の間で動きます。その周囲には咬筋や側頭筋など、噛むための筋肉があります。
顎関節症(TMD)は一つの病名ではなく、顎関節、関節内の円板、噛む筋肉などに痛みや動かしにくさが起こる状態の総称です。主な症状には、噛む筋肉や関節の痛み、口の開けにくさ、動かしたときの痛い音、顔や首へ広がる痛みなどがあります。
一方で、痛みのないカクカク音だけは珍しくなく、必ずしも治療が必要ではありません。 米国NIDCRも、TMDの原因は多因子で、多くの場合は一つに特定できないと説明しています。
なぜ起きる?解剖・生理・生活から考える
1.食いしばりに気づきにくい
安静時、上下の歯はわずかに離れているのが基本です。しかし、寝不足や緊張が続くと、スマートフォンを見ているとき、抱っこで立ち上がるとき、赤ちゃんの泣き声に反応したときなどに、無意識に歯を接触させることがあります。
食いしばりが続けば、咬筋や側頭筋は休みにくくなります。ただし、ストレスだけを原因にしたり、本人の癖のせいにしたりするのは適切ではありません。痛みは組織の状態だけでなく、睡眠、疲労、心配、過去の痛みなどの影響も受けます。
2.授乳姿勢では首と顎が同時に働く
授乳中に赤ちゃんの顔をのぞき込むと、頭が前へ傾きやすくなります。頭を支える首の後ろ側や、肩甲骨周囲は同じ姿勢を保つために働き続けます。
顎と首は別々の部品ではありません。2020年の系統的レビューでは、TMDのある人で顎の障害と首の障害に関連がみられ、頸部の可動域低下や圧痛の出やすさには中等度のエビデンスがありました。一方、頭の位置や頸椎の並びには明確な差がありませんでした。
つまり、首も確認する価値はありますが、「猫背だから顎関節症になった」とは言えません。
3.胸郭と呼吸も「力を抜く」手がかりになる
授乳や抱っこで背中を丸め、呼吸が浅くなると、肋骨の動きが小さくなりがちです。赤ちゃんを持ち上げる瞬間に息を止め、同時に奥歯を噛みしめる方もいます。
横隔膜が動く呼吸そのものが顎関節症を治す、という研究はありません。ただ、吐く息を長くして肩を下げ、歯を離す練習は、食いしばりに気づく合図として安全に取り入れやすい方法です。
研究から分かっていること
2024年の系統的レビュー・メタ解析では、筋肉由来のTMDがある成人を対象とした7件のランダム化比較試験が採用されました。頸部リハビリテーションは、対照と比べて短期的な疼痛軽減と関連しました。
疼痛強度は5研究223人で標準化平均差−0.98でしたが、研究間のばらつきは大きく、長期効果は不明です。また、対象は産後女性に限定されていません。
この結果は「首への介入で産後の顎痛が治る」ことを証明していません。顎だけでなく首の機能も評価する合理性を支える材料として読むのが適切です。
どうしたらいい?自宅でできるセルフケア
歯を離す合図を決める
スマートフォンを見る前、授乳を始める前、抱き上げる前などに、次の3点を確認します。
- 唇は軽く閉じても、上下の歯は離す
- 舌先は上あごの前方へ軽く置く
- 肩をすくめず、息を細く長く吐く
「力を抜こう」と頑張りすぎるより、生活の中で短く何度も思い出す方法が向いています。
授乳環境を身体へ近づける
赤ちゃんへ自分の頭を近づけ続けるのではなく、クッションや丸めたタオルで赤ちゃんを自分の身体へ近づけます。肘や前腕も支え、足裏を床や台につけます。
授乳のたびに完璧な姿勢を作る必要はありません。同じ側ばかりがつらい場合は、可能な範囲で向きや座る場所を変え、数十秒でも首を正面へ戻す時間を作りましょう。
顎を強く伸ばさない
痛い顎を大きく開けたり、音を鳴らそうと動かしたりする必要はありません。痛みのない範囲で小さく開閉し、硬いものやガムを一時的に減らします。温めると楽な場合は、低温やけどに注意しながら温かいタオルを短時間当てます。
ご相談例
授乳後に右の耳の前が重く、朝は奥歯が疲れているというご相談。まず、口の開き方や痛む場所、歯痛・腫れの有無を確認しました。生活動作では、いつも赤ちゃんを右側に置き、顔を下へ向けたまま肩をすくめ、抱き上げる直前に息を止める傾向がありました。
オステオパシー的には、顎だけでなく、後頭部と首、鎖骨周囲、肋骨、肩甲骨、呼吸のつながりを確認しました。
自宅では、授乳クッションの高さを調整すること、抱き上げ前に歯を離して息を吐くこと、痛みのない範囲で首を正面へ戻す時間を作ることを提案しました。
Life琴似店でできること
Life琴似店では、痛い顎だけを見て「ずれを戻す」とは考えません。口の開閉、首の動き、肩甲骨と肋骨、呼吸、授乳や抱っこの環境まで確認し、どの場面で負担が増えるのかを一緒に整理します。
オステオパシー的な視点では、身体を互いに影響し合う一つのまとまりとして捉えます。しかし、頭蓋骨や顎の位置を手で戻せる、施術だけで治せるという意味ではありません。研究の範囲と限界を踏まえ、刺激は無理のない範囲で行います。
完全個室のため、赤ちゃん連れでもご相談いただけます。日常で続けやすい授乳姿勢、呼吸、休み方を一緒に探します。
口が開かない・閉じない、顔面の腫れや発熱、外傷後の痛み、強い歯痛、しびれ、飲み込みにくさ、急なかみ合わせの変化がある場合は、歯科・口腔外科などへご相談ください。
よくある質問
顎が鳴るだけでも施術が必要ですか?
痛みや開けにくさがない音だけは一般的で、必ずしも治療が必要ではありません。気になる場合は、音を鳴らそうと繰り返さず、歯科で確認してください。
マウスピースを作ればよいですか?
合う方もいますが、TMDの痛みに対する効果は一様ではありません。自己判断で購入せず、歯科医師に相談し、痛みが増す場合は使用を中止して再確認してください。
授乳をやめないと改善しませんか?
授乳をやめる必要があるとは限りません。クッションの高さ、肘の支え、顔を下へ向け続ける時間など、環境を小さく変える方法から検討できます。
まとめ
産後のあごの痛みや食いしばりは、顎関節だけでなく、首の負担、呼吸、睡眠、緊張、授乳・抱っこの環境が重なっている可能性があります。ただし、姿勢だけを原因にしたり、顎や頭蓋骨の「ずれ」と決めつけたりはできません。
まずは歯を離す合図、赤ちゃんを身体へ近づける授乳環境、息を吐いてから抱き上げる工夫から始めてみましょう。痛みや開けにくさが続く場合は歯科・口腔外科で確認し、必要に応じて身体全体の使い方も見直すことが大切です。
参考文献
- National Institute of Dental and Craniofacial Research. Temporomandibular Disorders (TMD).
- Bednarczyk V, Proulx F, Paez A. The effectiveness of cervical rehabilitation interventions for pain in adults with myogenic temporomandibular disorders: A systematic review and meta-analysis. J Oral Rehabil. 2024;51(6):1091-1107. PMID: 38454576. DOI: 10.1111/joor.13671.
- Cuenca-Martínez F, et al. Craniocervical and Cervical Spine Features of Patients with Temporomandibular Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. J Clin Med. 2020;9(9):2806. PMID: 32872670. DOI: 10.3390/jcm9092806.
店舗情報
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店舗名
- 女性専門整体院 Life琴似店
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代表
- 菊地 健太(きくち けんた)
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住所
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リヴェール琴似1F
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